A世界#3
「お前は馬鹿か」と人に対しすぐ言う人間は、自分が本当は馬鹿である事を、あるいは何時の日か馬鹿扱いされないかと絶えず怯えている人間である。
手先が不器用な事をあざ笑い蔑む人間は、自分は色々な事をてきぱきとこなせる事に対して自信を持っているし、その自信を絶対に手放したくないからあざ笑い蔑むのだろう。
容姿について槍玉に挙げ嘲笑の種にする人間は、自分は容姿について絶対に嘲笑われたり馬鹿にされたくないと思っている人間である。
そういう意味では、テレビやラジオ、書面で様々な罵詈雑言が飛び交うこの世の中は、絶えず何かに怯える人たちの集合体なのかもしれない。
怯える対象は、外敵である。自分の平穏、生活を脅かす外敵である。この外敵の正体はいまいちぼくにはわからない。
ぼくたちの生きる社会を外からじっと眺めているように感じる事もあるし、霧状のものに姿を変え、内側の窪んだ所に潜んでいるように感じる事もある。
かくいうぼくも、絶えず何かに怯えながら生きている。
馬鹿と言われるのは嫌だし、失敗を嘲笑われるとつらいし、容姿についてからかわれると悲しくなる。
この外敵に立ち向かい、追い払う事は果たしてできるのだろうか。
いかんせんこの外敵は数が多すぎるのだ。暴力的な物量で蝕んでくるように感じる。
ただただ恐ろしい。